Interview インタビュー

Vol.1 / 2018.01.05

次期国際協力大型ミッション
JUICEプレイヤーインタビュー

Profile

齋藤 義文 Yoshifumi SAITO

国立研究開発法人 宇宙科学研究所 教授

「未知」の現象を測ることは、
人類にとっての世界を広げること

JUICEの目的と
国際プロジェクト参加への経緯

——第1回目はJUICE JAPANのプリプロジェクトマネージャーである、宇宙科学研究所教授の齋藤義文先生です。

いま、世界でいろいろな宇宙探査がすすめられています。JUICEはその中でも特に国際協力大型ミッションといわれていますが、JUICEの目的と、ESA(欧州宇宙機関)主体のプロジェクトに日本が加わった経緯をお聞かせください。

齋藤氏:JUICE(ジュース)は木星とその周りの氷衛星圏内のデータ収集/分析を目的とするESA主体のプロジェクトです。目的に関しては、詳しくは(この)JUICE JAPANサイトをご覧ください。
日本が関わることになった経緯には、2018年打ち上げ予定の「MMO」水星磁気圏探査計画/BepiColombo)で「プラズマ/粒子観測装置」(MPPE)や「プラズマ波動・電場観測装置」(PWI)を欧州の研究者と共に開発したことが深く関係します。これに加えて、2007年の月周回探査衛星計画/SELENE「かぐや」での固体惑星分野の研究成果など、長い流れの中であげてきた一連の成果が信頼を得たことによりESAから声がかかり、日本として参加に応じたのです。

——長い期間にわたる信頼関係からはじまった国際的な取り組みですが、具体的には日本は何をするのでしょう?

齋藤氏:まずは観測機を開発、提供する立場というのがわかりやすい回答かと思います。日本側からはGALA・RPWI・PEP/(JAXA提供)とSWI(NICT提供)の4つの機器の一部提供で欧州に開発協力します。またJANUSというカメラとJ-MAGという磁力計についてサイエンス参加を検討しています。

——国内だけのプロジェクトと比較して違いはいかがですか?

齋藤氏:日本国内だけでのものづくりでは、通常、誰がどのようなことを考えて物を作るかが大体わかった状態で取り組むことができます。ですが今回、海外の研究者と進める場合は、それぞれの国でやりかたも微妙に違うため、最初のうちはお互いのやり方を理解するためによく話し合うというところからスタートしました。これは国内だけのプロジェクトとは大きく違っていることです。
それぞれの文化の人間が集まって自由に創りあげていくのですからもちろん調整はとても大変です。しかし、制約や躊躇が取り払われて、これまでよりもそれぞれの国、それぞれの人間の持ち味が倍どころか数倍に増えて新しい発想があふれてくる手応えを感じていますね。

探査によって、人類にとっての空間が広がることへの楽しみもありますが、自由な研究によって視野が広がることも、これからの人類科学に大きく寄与すると思います。

——齋藤先生は元々プラズマのご研究が専門ですが、JUICEにて解き明かしたいとおもわれるご自身のテーマはなんでしょう?

齋藤氏:今までは、地球周りの磁気圏や北極のオーロラの上空などでプラズマの測定を行ってきました。月の探査「かぐや」(SELENE) では、磁場もなければ大気もないところでのプラズマ測定をしました。水星探査 「BepiColombo」(MMO)では、磁場はあるが大気がない状態のプラズマの動きを測る予定です。
そして今回、さて木星では…というところにきています。特に木星の4つの大きな衛星のなかでも一番大きなガニメデには、強力な磁場があり大気はあまりありません。木星周辺のプラズマの様子は地球周辺や太陽風の中のプラズマと違いますから、新たな条件で天体とその周辺のプラズマとの関係を研究することができるでしょう。
天体とその周囲のプラズマの関係にはいろいろな場合があるけれど、それでも観測例が増えていけば一定の法則が見えてきますから、さらにいろいろなことが解き明かされていくでしょうね。データは多ければ多いほど正しい理解に近づくわけですから。
今までのデータを元にした予測もできますが、それでもまだ予測を超えた未知の世界があるはずで、その「未知」の現象を測ることは、人類にとっての世界を広げることですから。

——プラズマ自体は、改めての機会にお願いしますが、では先生の研究対象において「プラズマ物理学」という学問は、現在、どういう状況にあるのでしょうか?

齋藤氏:現在では、地球磁気圏ということでも、オーロラでも、それぞれを全体として大きく見たときには何が起こっているのかは次第にわかるようになってきています。また、それらの現象の構成要素となる部分部分の現象についても同様です。ただ、構成要素がどういうプロセスを経て全体となるのかという関連のメカニズムが未だはっきりとわからないのです。小さいところだけを測っていても全体を予測できないので、それぞれの関連が知りたいところなのです。
また、新しい場所で新しい観測を行うと、必ず新しい知見が得られます。「かぐや」での月周辺のプラズマの動きはとても活動的で興味深いものでした。月周辺のイオンは月表面の物質に由来していました。つまり、イオンを調べることは、天体の表面にどんな物質が存在するのかを知るために有効なのです。このように月や惑星周辺のイオンを含むプラズマを理解するには、他の研究分野と連携して物質やその状態の知識もあわせて研究していくことが必要ですね。それはこのJUICEにも当てはまります。

次の世代へと引き継ぐことも
使命として感じています。

子供時代について

——プラズマという難しい研究へと至るまでに、そもそも宇宙に興味をもたれた最初の記憶はなんですか?

齋藤氏:誕生日に買ってもらった望遠鏡で土星の輪を見たことが宇宙に関する最初の記憶ですね。ものづくりでいえば、立体の紙のパーツをあわせて紙飛行機作ることが随分好きでしたね。父がオーディオ機器を趣味で作っていたため、電子回路の工作に必要なものが家に揃っていたこともあり、その影響で電子工作にも興味がありました。

——紙飛行機や電子工作から、何か今の機器開発に繋がるようなこともあったのですか?夏休みの宿題工作などは、得意でいらしたのではないでしょうか?

齋藤氏:あぁ、夏休みの工作で賞をいただいたことがありますね。賽銭箱の形をした貯金箱なのですが、手で持ち上げると電気がビリッとはしるものを作り、アイデア賞をいただきました。嬉しかったですよ。ほかにも、編み物のときに毛糸がころがらないようにするために木材を組み合わせた装置を作ったときも、祖母が「便利で助かる」と、とても喜んでくれたので、私も作りがいがありましたね。私はどこかへ行くのも好きだったので、何か作ったものを持っていって、行ったところで試すようになってからはさらに面白くてしかたなかったわけです。
作ったもので測りにいく面白さは今思えばずっと続いているわけで、学生のときに磁力計をつくって地磁気の計測を行ったことから、一気にプラズマの研究に没頭することになりました。

日常生活について

——先生は朝から夜更けまで研究に没頭なさっているイメージがあるのですが、お子様との交流もあるのですか?

齋藤氏:高1、中2、小2 と子供がいて、今は上の二人は大きくなったので遊ぶことは減りましたが下の子はまだ遊んでくれますよ。帰ったときに上の二人は起きていることもあり、会話も普通にありますね。
一番上は理系畑であることはわかってきました。二番目はいまとても料理が好きです。三番目は小学低学年ですからまだまだどういうことに興味をもつのか、これからのようです。どの子も可愛いですし、成長が楽しみです。

——他の先生がたに齋藤先生の日常生活について伺うと必ずでてくることのひとつが、食事を召し上がるのが早いということなのですが…(笑)

齋藤氏:食べるのが早すぎるとはよく言われますね。あまりにも言われるので、面前で食べている方に合わせるようにはしているのですけどね…(笑)。10代のころから早かったようなのですが、訓練をして遅くはなりましたし、最近はそんなに早くないはずなのですが…。あぁ、でもやっぱり前に人が居てくれないとペースがつかめないですね(笑)。

——齋藤先生はスレンダーなご様子ですが、横にお育ちになることもあるのですか?

齋藤氏:ロケット実験で北極圏のスヴァールバル諸島に居たときは太りました。北極圏は寒いので食事の回数が1日4回なのですが、72kgぐらいの体重で行って、一ヶ月経って帰ってきたら83kgになっていましたよ。しっかりと量も食べますから4回ともなると太ってしまうみたいです。来年2019年の1月に北極圏にまた行くかもしれませんので、また育つかもしれませんね。

——ご成長楽しみにしております。

研究者を志すこれからの人へ

——JUICEが木星に到達するころには、今の小学生が研究者になるころだとおもいます。これから先生のような道に進みたいと思う人は何を意識していけばいいのか、アドバイスをいただけますか?

齋藤氏:勉強という意味では、全般的にするのがいいとおもいます。確かに、観測機器をつくるために役に立つのは電子工作やプログラミングなど特定の分野だったりはしますが、特にこれだけという形ではなく、全体的に基礎的な裾野を広げておくほうが後に繋がります。
先人のおかげで優れたものがすでにあるので、真似をすることで高度な域にまで到達することができるようになるでしょうが、しかし、もう一歩進んだこれからの研究開発となると、さらに工夫することが必要になるので、若いうちはとにかく裾野をできる限り広くしておくべきだとおもいます。
研究者には好奇心が何よりも必要ですが、その好奇心と全般的であり基本的な勉強が合わさると、大きな力を発揮することができると思います。

——好奇心を生み出す広い裾野ですね。大学院にいきたいとか、修士だけでなくて博士、研究者になりたいと思うような方に具体的にアドバイスお願いします。

齋藤氏:中学生高校生時点では、先ほども話した好奇心はまだ絶えないでしょうが、それより後、研究に進みたいと思う時期にこそチャレンジ精神がほしいです。クリエイティブ性もチャレンジも、天性よりは訓練かもしれないと感じています。ちょっと違う方向に進んでしまってもかまいませんから、まずはやってみてほしいです。やっている過程でいろいろなことが誘発されてきますから。
若い方にそういう場をつくるのも私の役目であり、宇宙研にきていただければ、いろいろな可能性を広げるお手伝いができます。JUICEが木星に到達するのが2030年。ガニメデ周回をはじめるのが2032年ですから、JUICEとしても、次の世代へと引き継ぐことも使命として感じています。

経験と感覚を自ら信頼し、
そういう場を、ひとつひとつを
積み上げるしかないという固い意志

JUICE JAPANのプリプロジェクトマネージャーとして

——プロジェクトマネージャーとしてご自身を客観的にみてどうおもわれますか?

齋藤氏:まだ自分の目指すところのマネジメントとしては40~50点といったところでしょうか。
開発内容としてはいままでの経験を活かせるプロジェクトなのですが、研究所やヨーロッパと「繋げる」役目はかけだしですから、マネージャーとしてはまだまだだとおもいます。ですが、個性豊かなメンバーに協力してもらいながら、これからだと思っています。
宇宙研には、過去大きなプロジェクトが多数あり、プロジェクトマネージャーの経験がある方も多いので是非に学びたいのですが、昔と今ではJAXAの方式が違ってきているようなので、真似をするわけにはいかず、プロジェクトマネージャーとしての自分も日々開発といったところです。

——最初のころから、今にいたるまでの心境の変化はいかがですか?

齋藤氏:ミッションとしては、変わらずに「箱を飛ばすこと」ではありますが、若い人とも一緒にやることでいろいろなことを補い合う楽しみが増えてきました。関わる人たちと「一緒に想いを乗せる」という気持ちが強くなりました。段階を経て参加してくるJUICE JAPANメンバーへの期待も大きくなりつつあります。機器開発に関する信頼を積み重ねてきたことはもちろん、プロジェクトにおいては、人間関係による相乗効果も期待できるとおもいます。
BepiColombo以来の海外の優れた研究者と継続して交流していること、それから、信頼関係がすでに構築されている日本のSELENEメンバーとともに取り組んでいること、さらに、これからは全国の各組織からJUICE JAPANプレイヤーが段階ごとに参加してくることでさらなる触発があるはずです。互いに触発していくかたちで、また、なんでもすぐにダメ出しをしないことで、プロジェクトが大きく飛躍していくと実感しています。長い時を経て培った国際間の信頼、いろいろな組織や人が繋がってきたこと、繋がっていくことによる広がりと深まりを期待してください。

——一般的には、マネジメント役とスペシャリストは、視点が逆方向になる場合も多いかと思いますが、世間の目や組織の目も気になったりはしますか?

齋藤氏:ものをつくる側としてはチャレンジとトライの組み合わせですからね。冒険はおもしろいし、それこそが必要なのですが、大人ですので失敗が許されないことは念頭にもあります。ですが、リスクを見抜き、事実を積み上げ実績をつくるしかないと思っています。経験と感覚を自ら信頼し、そういう場を、ひとつひとつを積み上げるしかないという固い意志で進みます。
JUICE JAPANのメンバーであれば、役割にかかわらずプロジェクトを成し遂げるという目的にむかって進めると、私は確信しています。

——人類の夢と未来を託して応援しています。プロジェクトから日常にわたるインタビューにご協力いただきありがとうございます。これからのJUICE JAPAN楽しみにしています!

齋藤氏:ありがとうございます。これから長い年月にわたる応援を必要としています。どうぞ宜しくお願いいたします。わたしたちは、期待にこたえます!

取材:Nyan&Co. 西川