Interview インタビュー

Vol. 5 / 2018.10.5

次期国際協力大型ミッション
JUICEプレイヤーインタビュー

JUICEプロジェクトは
人生をかけた勝負になる

JUICEへ至る研究、開発の経緯

——第5回目はJUICE電波・プラズマ波動観測(RPWI)チームの日本側責任者(Co-PI)である、東北大学教授の笠羽康正先生です。

先生のご経歴を拝見すると、研究畑ではない分野もご経験になっているようですが、研究方面に戻られた経緯をお教えください。

笠羽氏:学生の時は京都大学の理学部(物理学科)におり、当時建設が始まった「すばる望遠鏡」の赤外線センサー開発で修士を取り、その後、NHK大阪放送局で経済・科学・文化のディレクターをやりました。その折にサイエンスもいいけれど、エンジニアリングも面白そうだなと思ったのがきっかけです。
それで京大の工学部(電子工学科)に戻り、初の日米共同プロジェクト・地球磁気圏観測衛星「GEOTAIL」の観測で博士論文を書く、という予想外の展開になりました。理で開発ばかりだったのに工ではサイエンス?と思いつつも、博士を取得。
そのあと、たまたまポストが空いた富山大学の電磁波工学の助手になりました。この研究室で、日本初の惑星周回探査機になるはずだった火星探査機「のぞみ」に出会うことになります。
東北大と金沢大・富山県大の共同チームでしたが、アメリカに行かれた前任者を引き継ぐ形で富山-金沢と相模原を巡回しつつ、のぞみのフライトモデル開発に関わりました。

——JAXAに移られた経緯は? どういうお仕事をされていましたか?

笠羽氏:我々の分野を源として支えてきた宇宙研、東北大、京都大のグループは、いずれも長距離電波通信とそのための電離圏観測を行ってきた京大・電波工学グループが元でした。その関係で、JAXAになる前の宇宙科学研究所・助手に移りました。計算機・ネットワーク・データベースを扱う「PLAINセンター」で宇宙研の裏世界をこなすことが主務でした。2003年のJAXA発足時には、情報システム・情報関係での相模原の実務裏代表でした。
衛星方面では、富山県大時代の1998年12月、地球離脱時にエンジントラブルを起こした「のぞみ」を支え、2002年4月の致命的な電源トラブル時には運用当番で、その後の綱渡りの運用を行い、2003年12月にこの探査機の最期を看取りました。事故調査の裏役としてもいろいろ仕事をしました。
「のぞみ」の後を継ぐものとして、金星探査機「あかつき」の話が既に出てきていました。この探査機には修士論文で扱ったセンサーを使う赤外カメラが載ることになり、必要な計算などでお手伝いをし、一方、「のぞみ」に含まれていた欧州協力の発展として日欧共同水星探査「BepiColombo」の話も出て、私は水星側で観測装置全般の世話係をやることになります。宇宙研にいた2007年までは、JAXA特に相模原の裏仕事、「のぞみ」の事故調査報告、水星「BepiColombo」の観測装置開発全般のお世話、さらに金星「あかつき」のお手伝いという形でした。

——東北大に移られてからはいかがでしょうか?

笠羽氏:JAXAは楽しかったわけですが、「のぞみ」のことがあり、人生どうなるのやらと思っていたところ、工学博士ながら東北大の理学部に縁があり、プレイヤー側へ現場復帰しました。
総合大学には多種多様で幅広い分野の人がおり、また大勢の元気な学生さんがいるので、非常に楽しいところです。私は教員には向いてないと思っていたのですがね。優秀な院生諸氏と接するのは仕事冥利に尽きます。体験したことのなかった仙台の寒さ、そして3.11地震については、想定外でしたが、震災時には、宇宙における「非常事態対応」と「安全確保」の考え方と反射神経が役立ちました。


JUICEプロジェクトのきっかけ

——ESAが主体であるJUICE計画に参加なさった経緯を教えてください

笠羽氏:JUICEは、日欧共同水星探査の「次」として、私が東北大に移った頃から日本側、欧州側、そしてアメリカ側の3者で検討を進めてきたものです。結果、日本が提供を検討した独自探査機は流れ、JUICEの観測装置への協力参加となりました。日本が自身で開発したものが火星軌道を越えるのは史上初となります。アメリカも独自のエウロパクリッパー探査機を進めることになりましたが、JUICEと協力して進みます。



私は東北大に移ったあと、BepiColombo・電波・プラズマ波動観測器(PWI)の全体責任者を引き継ぎました。このチームのスウェーデン・フランス組はJUICEの欧州側推進メンバーでもあり、自然とJUICEが「次の計画」となりました。東北大は、数十年来の木星研究を進め宮城・福島・ハワイに地上観測設備を展開してきた日本における外惑星研究のパイオニアでもあります。私は東北大出身者ではありませんが、東北大の現スタッフとして、このJUICE計画への参加については、諸先輩の誇りと本学の歴史、業績に対する責任を負って臨んでいます。
BepiColomboでの欧州宇宙機関(ESA)とJAXAの信頼関係は、先人が培ってきたものです。Bepi計画におけるESAや主担当メーカーのAirBus社、欧州側観測装置メンバーはJUICEとかなり共通しており、同じ人たちと出会うことが多々あって実に光栄です。
BepiColomboは2018年に打ち上げ、2025-6年に水星周回観測をする予定です。JUICEは、2022年の打ち上げ、2030年代に木星周回観測の予定です。2026年までは互いに並走するわけで、双方にとってメリットがある構図を構築していくことができます。欧州サイドとのこの十数年の交渉・調整は実にいろいろなことがあり、現在も進行中です。


JUICE搭載機器RPWIについて

——笠羽先生が担当されているRPWIについてお教えください。

笠羽氏:RPWIは、木星が放つ激しい電波活動、木星と衛星を包む高温プラズマの擾乱を示す電場・磁場の波、そして氷衛星周囲の濃い電離圏の密度・温度を観測しに行きます。土星探査機カッシーニに搭載されていたRPWS(米欧共同チーム)およびBepiColomboで私が主任研究者を務めるPWI(日欧共同チーム)の「良い所取り」をしたような設計思想で、以前木星を周回した米・ガリレオ探査機や現在周回観測中の米・Juno探査機の搭載機器と比べ、機能・性能とも各所で大幅に上回ります。
RPWIは、低温プラズマの密度・温度や低周波電場波動を観測する4本のセンサー(LP: Langmuir Probe)、低周波磁場波動を観測する3軸センサー(SCM: Search Coil Magnetometer)、電波を観測する三軸センサー(RWI: Radio Wave Instrument)と、これらに接続するレシーバーから構成されます。
JUICE全体にとっては、これらの情報は木星とガリレオ衛星を包む磁気圏およびそれをつなぐ磁力線上での諸活動の量・性格に対する不可欠な情報です。氷衛星群においては、表層から上がってくる低温大気やダストを捉え、また氷衛星の地下に潜む「海(塩水なので、氷地殻と違い電流が流れやすい)」の存在実証に不可欠な電気的情報の獲得を支えます。
日本側チームは、Geotail・のぞみ・BepiColombo・あらせを支えてきた「東北大+金沢大・京都大・名古屋大等連合チーム」によって構成され、RWIアンテナとこれにつながる高周波レシーバー、およびそのデジタルデータ処理を、スウェーデン・ポーランド・フランス組と協力して提供します。この「高周波観測機能」(80kHz – 45MHz)は、木星軌道で初めての電波の方向探知能力を備え、また「ガリレオ」「Juno」の二桁上という圧倒的な感度を実現します。
日本側チームは、「のぞみ」や月探査機「かぐや」にもレーダー探査装置を搭載し、「のぞみ」では残念ながら実現に至りませんでしたが、「かぐや」では月表層の地下に潜む過去の溶岩活動による地殻形成史の探索や中空の溶岩チューブの発見に寄与してきました。この折、地球が放つオーロラ電波が月の表面を反射して戻ってくる「電波エコー」を確認しています。
JUICEでは、より強力な木星電波によって氷衛星表面・地下の反射エコーが生じえます。これにより、地下数十kmに潜む可能性がある「地下海の上端」を直接捉えることができるかもしれません。この「パッシブレーダー機能」は、JUICEサイエンスチーム全体でのホットトピックになっており、急速にその検討が進んでいます。

全てが繋がり、今がある

——笠羽先生は水星探査「BepiColombo」のPWIの日本側PIですが、「JUICE」のRPWIとで内容は大きく違うのでしょうか?

笠羽氏:「JUICE」のRPWIチームの全体責任者はスウェーデンのJan-Erik Wahlund博士で、彼は「BepiColombo」のPWIチームにおける欧州側責任者の一人です。かなりのメンバーが双方に重なっています。この観測装置が開発可能なのは、米大学連合(アイオワ大・ミネソタ大・コロラド大・カリフォルニア大など)、欧連合(スウェーデン・フランス・チェコ・ポーランドなど)と日本チームぐらいです。
観測装置は国際公募によって選ばれるのですが、RPWIは元々これら全体をカバーする欧米日連合チームでした。この装置に関しては、我々以外の誰もこの開発と観測はできません。都合があり米国側は抜けましたが、欧日連合、つまるところBepiColomboのPWIチームとほぼ同じ構成に落ち着いています。
日本の開発部分は、火星探査機「のぞみ」、月周回衛星「かぐや」を発展させたBepiColombo・PWIの設計から出発し、木星の激しい放射線環境と極低温環境でも機能するよう苦労して開発してきたものです。2016年末に打ち上がった地球放射線帯観測衛星「あらせ」の開発は実はJUICE用開発が先行したため、その設計を取り込んでいます。このため、鍵となる部分を「あらせ」で実証することができました。特に地球の放射線帯という木星に継いで環境の厳しい領域を既に1年間無事に乗り越えてきています。
宇宙機は、開発機会が少なく、故障しても修理はできず、またその故障原因の調査も困難です。その意味で、今回の開発は、私たちが関わってきた関連プロジェクトの全てのノウハウがいい形で繋がって生きています。


プロジェクト成功のために

——JUICEプロジェクトをすすめるために、大事なことは何だと思われますか?

笠羽氏:「JUICE」が木星周りに到着するのが2029年、終わりが2033年。私は2031年に定年です (笑)。人生をかけた勝負になる。これだけのものを突っ込んでも「のぞみ」のように何も残らないこともある。だからこそそういうことが起きないよう、それだけのものを突っ込まないといけない、ということです。「のぞみ」の事態を繰り返す気はありません。
衛星・探査機の「開発・製造」には、厳密な論理、試験結果、素材・材料特性、その他諸々を背景とした知識と過去の手痛い経験、すなわち時間の蓄積が必要です。
惑星探査は時間もかかります。普通の大学研究者として個人技で研究していればいいのですが、我々の仕事の場合、誰かが代わりができるようにしておかなければならない。仕事は「チームで受ける」ということで、東北大として、その覚悟をしています。

——国内プロジェクトとの違いはありますか?

笠羽氏:欧米では研究者が直接開発・製造を担い、開発担当の技術者がいますが、日本ではエンジニアリングまで研究者が兼任するというやり方です。このため、欧米側はテーマ毎に人が入れ替わりますが、日本では1人で全部をこなすようになりがちです。
国際的には、地球周回・惑星探査ミッション観測装置開発は、チームを組める規模の大学・研究機関が担い、チームがデータ解析と成果創出を主導します。日本の場合は、初期の小規模計画の延長線のまま個別に呼び集める方式でやっているので、個人への要求水準が高く、リスクが大きく期間が長い惑星探査の面倒を見る責任を果たすのは難しい状況でしょう。
とはいえ、東北大は幸い「チーム」を組める規模があり、個人的な能力に依存しつつもRPWIの中でも遜色のない能力を示すことはできています。

——大学の業務との兼任は大変でしょうね

笠羽氏:国際協力で手がけるJUICEの機器はヨーロッパで衛星に組み付け半年ほど試験しますから、大学教員として取り組むのは難しいことです。講義を全部誰かに任せるしかなくなり、論文も書かない・講義もしないでは本末転倒です。大学の部門の存続に関わるようなことにならないよう、大学に所属しながら取り組むことは、本来は難しいのですが、その点では本当に東北大に感謝しています。


こころがけていること

——ご健康にも気をつけられていますか?

笠羽氏:2日に一回くらい早ければ9時に寝て、7時まで熟睡します。私を最初に宇宙開発・科学衛星に誘ってくれた方が激務をこなしながら早く亡くなられ衝撃でしたから、その教えだと思うようにして、睡眠だけはしっかり確保しています。

——学生さんに対してはいかがですか?

笠羽氏:あくまでも自分の大学の学生が研究者としていい人生を送りたいのであれば、隣の分野・広い分野にもインパクトがある仕事をしっかり選べるようにし、さらに親切心と想像力を持ってこなせるようになるところまで協力するというのが私のプライオリティですね。

——具体的には?

笠羽氏:東北大の見地から言うと、JUICEも仕事の一つです。木星の研究ですら仕事の一つです。元々東北大が木星やいろいろな惑をやり始めたというのは地上の電波望遠鏡での観測からで、天体の電波観測と光の望遠鏡を使っています。福島・宮城などに電波望遠鏡があり、複数の望遠鏡を使ってひとつの大きな口径の望遠鏡に映し出す干渉計で観測ができます。
ハワイのマウナケア山には「すばる」望遠鏡、マウイ島のハレアカラ山には2つの望遠鏡を設置もしました。それらを使ってずっと木星や外惑星の研究をやってきたということは、蓄積として大きいと思います。

今、作っている装置の回路は、地上観測用が元だったり地下探査レーダー(月・火星・小惑星の地下の探査にも使える技術)を共通させて開発しています。地上・地球を対象にした技術開発・観測が大きい輪としてあり、他には、例えば、木星の周りの活動をシミュレーションの中で再現し、望遠鏡でそれを見たりしています。さらに、「ひさき」は計算機の部分でお手伝いに入っています。
サイエンスをマルチな、地上観測と開発、数値シミュレーション、衛星での観測(アメリカの「ジュノー」という衛星があるので、アメリカと協力しなければならない)、土星を周回している「カッシーニ」という衛星は、協力先のパリ天文台が電波観測のひとつの山(「カッシーニ」のデータを握っている)で、うちは「カッシーニ」のデータを使いながら彼らと一緒に仕事もしています。
アメリカ・ヨーロッパの探査機データを使わせてもらっています、火星探査も同じですね。その上でようやくJUICEをやれるわけです。

このような、どれもこれもが組み合わさって、いろいろなところで結果を出しながら繋がっています。世界的に見ても、きっちり仕事をしているように見てもらうと、いい情報やいい協力関係がきます

科学は多くの経験から形成される

——最後に読者やこれからの世代の方へ、メッセージをお願いいたします。

読者へのメッセージ

笠羽氏:宇宙のための極めた技術は、事業にも流し込めるはずです。なんらかの形で日本全体のいろいろな分野に波及する効果をもたらすことは保証しますので、次世代の日本の宇宙分野への人材を養成することに、是非ご協力をお願いしたい。
まぁ、それより、純粋に「宇宙」って面白いですよ、いろいろな方に面白さを共有していただきたいです。

取材:Nyan&Co. 西川