Interview インタビュー

Vol.2 / 2018.01.12

次期国際協力大型ミッション
JUICEプレイヤーインタビュー

Profile

関根 康人 Yasuhito SEKINE

東京大学 准教授
大学院理学系研究科

常に視野の裾野を広く持ち、
迅速に柔軟に
多角的な視点から切り込む

JUICEにおける、
日本、そして関根先生の役割

——第2回目はJUICE-JAPANプリプロジェクト・サイエンスマネージャーである、東京大学大学院理学系研究科 准教授の関根康人先生です。

関根先生は、JUICEの何に惹かれてプロジェクトに参加されたのでしょうか。そして、JUICEでは何を目指されるのでしょう。

関根氏:私の研究における究極の目標は、宇宙における生命の普遍性を明らかにすることです。簡単に言えば、生き物が地球以外にいるのか、あるいは地球でどう生まれたのかというところに興味があります。今から10〜15年ぐらい前に、表面が氷で覆われている氷衛星の内部に、液体の海があることが明らかになりました。当然、生命の可能性もあるのでは、と注目されたわけです。現在では、そのような内部にある海の成分の分析など、より生命に一歩近づける探査が行われつつありますが、そういう探査が行われるのは海外でばかりでした。今回は、私たちはお客さんではなく日本として主体的に取り組む立場にあることが、私がJUICEに参加する大きな理由です。

——JUICEにおける日本の役割は何でしょうか。そして、これからどこに重点をおいたらよいと思われますか?

関根氏:日本が伝統的に強い「惑星の形成理論」(太陽系の惑星たちがどうできたか)を考える上で、木星というのは非常に大事な惑星です。木星がどこでできて、どのような過程を経て、今の位置にあり、今の大きさであるのかということは、一見関係なさそうな地球や火星の形成や海・大気を獲得するプロセスを根本的に決定しています。ですから、木星がどのようにできたかを調べることは、太陽系の理解、ひいては地球の起源において最重要だと思います。
今は、まだ木星の形成について理論と実際の観測による実証がしっかり融合している訳ではないのですが、きちんと融合できるようにできれば、もともと惑星の形成の理論に強い日本は、世界より一歩進んだことができるのではないかと思っています。

——関根先生は、宇宙科学研究所の外部の所属として、JUICEプロジェクトについてどう関わっていかれますか?プロジェクトとして気になる点はありますか?

関根氏:JUICEにおける私の立場は、もちろん一人のプレイヤーでもありますが、部活で言えばマネージャーのような立場も同時にあります。後者はどういうことかというと、なるべく色々な人にJUICEに参加してもらって、参加した人たちが楽しみながら、新たな研究の展開を見つけていけるような体制を作るということです。JUICEというミッション自体が、いまはまだ研究者にさえも広く深くは認知されていない点は気になる点です。分野連携を通じて、各大学を含めて周辺分野を広げ、その大きな基盤の上にJUICEを成立させていくのがよいのではないかと思いますね。大きな基盤がないと永続性が担保されにくい点を危惧しています。大きい基盤があれば、次は何を目指すべきかという広い視点にたった目標が考えられますし、JUICEの後も火星など他の天体の探査にも展開していけると思います。打ち上げが5年先で、到着がさらに数年先なので、どのように連携していけるのかを念頭に置いて宇宙科学研究所の外部の人間としても関係していかなければならないと思っています。人の交流やノウハウの伝授も含めてJUICEに繫がるもの、JUICEから先に繋がる関係を強く作っていきたいと思います。

人の交流やノウハウの伝授も含めて
JUICEに繫がるもの、
JUICEから先に繋がる関係

——JUICEに関わる実験や研究はどのような感じで進めるのかお教えください。

関根氏:個人的なことをいうと、生命を育むような場が地球外にあるのかを明らかにする研究を進めたいと思っていますね。具体的には、氷衛星の中の海と、海底の岩石あるいは海を覆っている氷、つまり、液体の海の上下の境界での物質交換、化学反応に興味があります。そのような場所では、海の中には溶けていないような物質が岩石や氷から供給されているはずです。もし生き物がいるとしたら、そのような場所で岩石や氷から供給される物質を使って、エネルギーを得ているのではないかと考えられます。そこで、そのような物質交換の境界で起きる化学反応を実験室で模擬、あるいはモデル化する研究をやっています。
具体的には熱水の1300気圧環境で起こる反応です。地球の海底の圧力は平均して300気圧ぐらいですが、エウロパの海底ではその4〜5倍の高い圧力になっています。地球上で一番高い圧力がかかるマリアナ海溝より、さらに圧力は高いわけです。実験データもほとんどありません。
ですが、最近になってそのような条件を実験して創り出せる装置が、私の研究室で完成しました。

——世界で初めてエウロパの海底の実際の環境を創り出して、何がおきているかを調べることができる装置のことですね。

関根氏:そうですね、今後の成果を楽しみにしていてください。

国や分野を超えた人の交流

——さきほど「惑星の形成論」について日本では世界より一歩進んだことができそうだとおっしゃいましたが、どのような形で進展すると思われますか?

関根氏:今の惑星の形成論、特に太陽系形成論は、理論ばかりが先行して、実証性に乏しいという問題があります。今の太陽系のような姿を、理論的には色々な道筋で作ることが可能なのです。しかし、実際の道筋は一つのはずです。実際にどのような道筋でできたのかを知るには、今の惑星や衛星などに残る痕跡である物質を調べ上げることが必要です。その物証を、最も大事な惑星である木星とその衛星で得るのがJUICEです。JUICEによって、理論と物証がそろった新しい惑星形成論が生まれると思っています。
それだけではありません。探査を進めると、当初は予想されない何かが必ずあります。例えば、土星のエンセラダスという衛星では、内部の海水が宇宙に噴出しているということが、探査機カッシーニの観測で初めてわかりました。そういった何か予期しないものもJUICEで見つかるかもしれません。それが見つかったときに、常に視野の裾野を広く持ち、新しい発見に対しても迅速に柔軟に多角的な視点から切り込んでいける体制を作ることも大事だと思います。
ある種コミュニティーが小さい日本では、やっぱり横の繋がりが重要だと考えられていますし、横の繋がりを作ることは、コミュニティーが大きい国よりは容易にできるはずで、日本の利点と考えて関係を広げていこうと考えています。

——日本の特性を活かした横の繋がりというのは、学会などの枠をこえてということですか?

関根氏:その通りです。物理、化学、生物学、地学というのは、そもそも人間が勝手に決めたくくりであり、例えば「宇宙における生命」といった課題に対しては、分野や学会の垣根は本来取っ払うべきでしょうね。海外では火星についてそのような分野横断的な研究会も開催されていますが、氷衛星にまでは広がっていません。あるいは、惑星形成論も、先ほどお話ししましたが、理論と物証の間にもまだ垣根はあります。JUICEを利用して、そのような融合を日本でスタートしたいですね。火星や氷衛星などの太陽系天体で融合を進めて、そこから更に系外惑星にも展開する。あるいは系外惑星から太陽系の科学や探査に入ってくるなどの柔軟な交流もおきるでしょう。限定せず広く考えたいですね。

——今ちょうど、文部科学省からの研究費で進めておられるプロジェクトに「水惑星学」というものがありますが。

関根氏:そうですね。「水に関係した天体、つまり地球だけでなく火星、氷衛星、探査機はやぶさ2が向かう小惑星、さらには系外惑星」という場で、液体の水がその天体の表層環境、そして生命の生存可能環境をどう作ってきているかを包括的に理解しようというものです。
その中でも氷衛星というのは重要なひとつのパートです。ただ、難しいのは、あまり広げすぎるとやはり逆効果で焦点が絞れず終わりになってしまうということで、焦点を絞りつつあまり閉じずにやるバランスを見極めたいですね。

——理論をやっている方、観測データを扱っている方と分かれがちですが、そのあたりについてはどう思われていますか?

関根氏:現在日本では、データを見る研究者の割合というのは他の国に比べると圧倒的に少ないのは確かで、バランスがよくないですね。どうしてそうなったのか経緯は歴史的なこともあるので複雑ですが、日本人はデータよりもコンピューターの中でできることに終始しがちではあるようです。ですが、コンピューターの中でできることには限界があり、現実の世界をすべて再現することはできないですし、現実を見て実証していくことの大事さも理解されるべきだと思います。

——データも扱うことができる研究者が増えるためには、どんな方法を考えられているのですか?

関根氏:国内活動の支援もそうですが、海外共同研究の支援も手っ取り早く有効ですね。若手研究者の派遣などです。火星周回機や土星探査機などに搭載された機器の特性レベルから理解できるようにしたいですね。
海外にいってデータ解析を習得した若手が、宣教師となってデータの解析を国内の学生に伝えていけば、データを実際に見る人を増やす流れになると思っています。そういった人たちが、今度は日本が将来行うであろう火星着陸探査の着陸地点を決める人材になります。探査衛星から見た地表の様子が分からなければ、着陸地点は決められませんよね。そういった日本の着陸探査に、今度は海外から協力者が現れて人材が国内・海外で循環していくようなことも起きるかもしれませんし、そのような状況が理想だと思います。

「宇宙における生命」において
分野や学会の垣根は
本来取っ払うべき

ご自身のサイエンス分野での役割

——研究というもののなかで、先生の立ち位置をどう考えておられますか?

関根氏:大きな研究の流れの中で、自分の立ち位置を考えるのは難しいですね。しかし、「研究者は研究人生を30年として、10年ごとに区切ってやるべきことを整理せよ」という話を聞いたことがあり、私もそれにならって30歳のときに、やるべきことを10年単位で考えることで自分の立ち位置をはっきりさせることにしました。
最後の10年で何とか地球外における生命の可能性の理解にたどり着くため、最初の10年では、まず太陽系の個別の惑星や衛星における大気や海洋の化学を理解することにしました。土星の衛星や火星、冥王星など研究対象は多岐にわたりました。その際、地球化学や地質学の人たちも巻き込みながら研究をしました。頭を使うというよりは、泥臭く根性で頑張るというスタイルですね。
その後の10年、つまり今は、個別の天体の理解を統合して、より一般的に大気や海洋を持つ天体が、どう進化していくのかの理解というテーマに取り組むつもりです。多くの優れた人たちの協力も得て、チームもできつつあります。

生命への興味

——生命に興味があるとのことですが、いつ頃から宇宙や惑星生命への興味がはじまったのでしょうか。

関根氏:私が東京大学に入ったのは、地球の進化に興味があったからです。地球上の生命と地球がどう相互作用をしているか、地球と生命の共進化に興味があり、地球惑星物理学科に進学しました。宇宙よりも地球の進化を知りたいと思っていました。宇宙や惑星での生命に興味が出たのは、大学院に進学するタイミングからでしょうか。

——元々は地球に興味があるというより、生物がお好きなのですね。

関根氏:そうですね。生物が好きで幼い頃から図鑑を見たり、動物園や野山に行ったりすることは好きでしたね。それを動機として入ったので、地球史の研究をやるかどうかも悩みましたが、地球の歴史の中で一番分かっていないのは地球最初期のことですし、どうせやるのだったら地球や生命の歴史の最初の1ページ目になるような仕事をやりたいなと思いました。それで、生命の起源に興味を持ちました。
しかし、生命の起源は現実的には絶対わからないといってもいい問題です。立証することがほぼ難しいですからね。推測を重ねていくことはできますが、仮にフラスコの中で無機物から生命を作れたとしても、はたしてそれが原始の地球で起こったのかというと、その保証はありません。ですが、地球外に生命がいることは立証できるかもしれませんし、そのサンプルをもってこられれば判断ができます。そのような生命の可能性の多様性や生命の誕生条件を知ることで、初期地球の状態や地球生命の起源に迫ることができると考えるようになりました。そこから徐々に研究対象が宇宙にシフトしていきました。

何かひとつの事象を
説明するわけではなく
全体像を俯瞰する

ご自身の学生時代

——大学に入ったあとのことをお伺いしたいのですが、授業で特に影響を受けたことはなんでしょうか。

関根氏:授業が印象に残ったという意味では、地球の金属コアやマントル対流の進化を研究なさっていた教授の浜野洋三先生と栗田敬先生ですね。なぜそのお二人かというと、何かひとつの事象を説明するわけではなく、全体像を俯瞰する、地球を丸ごと考えるという考え方が斬新だったからです。大学の授業では、例えば大気についていうなら、対流圏、成層圏、中間圏、電離圏など、細かく区切って個別に説明をするのですけど、お二人のやり方は違いました。地球の一番中心のコアから一番外の電離圏まで、それらが相互作用とする一つのシステムであるという立場に立った講義に感銘を受けましたね。

大学生・院生、そして、これからの方に対して

——学生に対して期待すること、先生の学生時代と違う点や気になるところはありますか?

関根氏:「宇宙における生命」というテーマを当然のものと思って考えられるのは、今の時代の学生の特権かと思います。私が学生の頃は、宇宙といっても基本的に物理学中心、地球物理学が中心でした。今も基本的にはそうですが、化学、特に生命の前段階の化学や物質循環、地質的な証拠による実証も加わってきています。宇宙における生命というテーマをSFではなく、明確な科学として認識できているところからスタートできるというのは羨ましくはあります。

——ご研究が、若いかたの土台や人類の知恵になっているのは、素晴らしいことだと思います。さらに、学部生、院生に対して特にやったほうがいいと思われることはありますか?

関根氏:ゼロから作るという経験を大学院の間にしてほしいなとは思いますね。それは、実験装置でもいいし別のものでもいいです。研究をしても社会に出ても、新しいことを始めるのはものすごく大変ですが、ゼロから作る経験というのは自信になります。
現代のように、自然科学自体が萎縮していくなかで理学をやるのであれば、博士の学生は特にそうしてほしいです。せっかく理学をやるのであれば、本質的なテーマをやるべきで、本質的なテーマとはやっぱり新しいものであり、分野の融合を必要とするものです。大学にいると、自分で新しいものを作らない限り、自然科学分野全体が一般教養の一つになってしまうと感じますね。出口が2、3年先にあるような研究ではなく、純粋な自然科学を学問としてこの先の人類史に残すためには、誰かの真似にならないゼロから作るということをやってもらいたいと思います。何かしら小さい部分からでも何もないところに立ち返って新しいところから挑戦する癖はつけてもらいたいですね。

——研究の道に進むためには、何が重要な素質だと思いますか。

関根氏:好奇心ですね。まずは実際に動いてみることだと思います。

——自らタフに向かっていって、チームが良い方向へといくようにする役割を担いつつ、次代に、大学の先生としても期待をかけるところは大きいわけですね。貴重なお話、ありがとうございました。今後も、ご研究の広がりを楽しみにしております!

取材:Nyan&Co. 西川