Interview Vol. 3 / 2018.01.19
次期国際協力大型ミッション
JUICEプレイヤーインタビュー
国立研究開発法人 宇宙科学研究所 助教
何かの理由で切り替わったときに
見えてくるものがある
JUICEプロジェクト参加への経緯
——第3回目はJUICE JAPANのJANUS(可視分光映像カメラ)のサイエンスCo-Iである、宇宙科学研究所助教の春山純一先生
です。
JUICEの探査において、春山先生が参加なさった経緯とお立場、お役目についてお教えください。
春山氏:
JUICEでは私は日本側として可視分光カメラを担当し、サイエンスCo-Iとして、リーダであるPIの観測機器の開発の支援をしています。これまで検知器性能検討や迷光対策、今は特に校正データ取りの試験計画立案に参加しています。今後は運用計画の立案ツールなどの検討もしていこうとしています。JUICEになる前のラプラスという探査計画の、イタリアのカメラPI(主責任研究者)が私の機器開発スキルを評価してくれたことが経緯です。氷衛星は面白いですね。生命の居そうなデータが見えるかもしれないので元々興味がありました。
ただ、2029年に木星周り到着ですから長い時がかかりますし、後進に、このプロジェクトを通して私のカメラ開発経験・スキルを受け渡しし、かつ実際に光学観測機器の開発、運用、データ解析に参加する道をつけるという位置づけも大きな目標としています。
そのために自分がやらなければいけないのは、まずは海外の研究者、特に日本ではなかなか機会のないハードウェア開発の機会を持つ研究者とのより密なコネクションをつくることでしょうか。また、探査機のデータを使うときにキャリブレーション(較正)データが重要なので、そこをしっかりおさえておくことが重要ですね。
今回の私の役目としては自分の科学の目標というよりは、日本の将来の探査に役立つように、機器開発のスキルの継承と発展、そして世界の中での機器開発戦略・ヴィジョンの作成に繋げることだと思っています。
——日本の科学を育てるための足場となるお覚悟を感じますが、春山先生が個人的にJUICEに関わるメリットはなんでしょうか。
春山氏:
新しい発見とか成長って、機会がないところだからこそチャンスがあるわけですよね。何かを懸命にやってきたことが、なにかの理由であえて切り替わってしまったときに見えくるものがあると思うのです。
同じところにとどまらずに違う視点をもつのは大事なことだと思っていて、今回でいえば、今まで関わってきた月だけでなく、火星や木星などに関わっていくことであり、それらは相互に作用するはずです。僕がJUICEに関わったのは保守的になりがちな頭というものを活性化させてくれるという個人的なメリットが大いにありますね。
宇宙を意識した経緯、今までのご研究
——春山先生の人生における研究というものについてと、動機について教えてください。
春山氏:
学生の頃から3つ命題をもって研究に取り組んでいます。1つめはなぜ私はここにいるのか、2つめは手がとどくところの惑星系・宇宙がどうなっているのか、3つめは未来に世界がどう変わっていくか、あるいは人類がどうこの世界を変えていけるかです。
宇宙に人類が出て行くなど人類の可能性を証明するのに何かしらの役割を担いたい、ということが大きな目標としてかなり小さいころからありましたね。例えば、高校を卒業する頃には、スペースコロニーの研究を通して人類が自らの生存に適す環境を生み出せることを証明したい、などと思ったりしました。大学理学部に入ってからは、根源的なことを知りたいと考えるようにもなり、紆余曲折いろいろあったのですが、結果的には今まさに、そういう生命の起源、惑星の起源、月などを研究するようになりました。スペースコロニーを作りたいという目標から遠くにきているようでありますが、基地を作るというところに話がきているので、自分がやりたいことにはたどりつけてはいます。
自分が何をしたかによって認められる
惑星探査・研究への道
——その中で惑星探査に入られたきっかけ、具体的には大学に入られてからの、特に探査に加わったきっかけは何ですか?
春山氏:
今思うに、高校に入った頃に祖父がなくなり、葬式にすごく色んな人が集まってくれたのをみて、人間は他人に認められる=他人に良い影響を与えられることが大事だと感じました。自分がなぜいるかという証明は、他人によって認められる、自分が何をしたかによって認められるのだと思いました。高校生ぐらいのころの野心としては、世の中では知られていないことが多い宇宙をテーマにしてみたかったし、そして、親と祖父が建築をやっていたので、建築を宇宙と融合させるものがスペースコロニーだったわけです。
そのためには科学の基礎となる物理学を勉強すべきだ、と思って浪人して京大理学部にはいりました。しかし、やはり工学部に惹かれたりもして、迷いがありましたね。
ちょうどそのころ、工学部におられた松田卓也先生がスペースコロニーについて書かれた文章を読みました。迷いが大きかったので思い切って訪ね、アドバイスをお願いしてみたところ、今、宇宙研から理学部に寺澤敏夫さんという優秀な人が来ているからその人に就いたら、って話になったわけです。そして寺澤先生を訪ねたところ、地球電磁気学で衛星のデータも使いながらも、宇宙物理とか天文そのものというわけでもない視野の広がりに惹かれました。
——ではまだそのころは、はっきりと決めていたわけではなかったのですね。
春山氏:
大学院のころは、まだ基本的には探査はやるつもりはなく、データ処理、データ解析、理論計算などをしていました。周りで探査をやってらっしゃる方が多いこともあり、では自分はコーディネイト的に役に立てないかと思っていたわけです。
探査はやらないと思っていたのですが、博士号をとった後に行ったアメリカで縁があって、旧NASDAにひっぱってもらえたのです。少し勉強をしておいたほうが次のステップにいけるかなと思ったので月探査に取り組んだのですが、そこから10年以上月探査に取り組むことになりました。
結局は、プロジェクトの立ち上げからはじまり、観測機器の開発、これはもう本当に大変で毎日が苦労の連続でしたが、打ち上げ後の実際の運用、とれたデータの一次処理、校正補正処理、そして一番やりたかった解析までてがけました。プロジェクトを最初から最後まで常に現場の最前線で行ったことで、機器をつくるところだけでなく、すべてのプロセスを手がけられる力がついたので、非常によかったと思います。
——すべてのプロセスに携わることは大変過酷だったとおもいますが、経験を確かな実力になされたのですね。
月の探査で、とくに「かぐや」(「SELENE」
)ではいかがでしたか?
春山氏: SELENEに搭載されたカメラを3つ担当しました。どんなデータをどう取るか、仕様をどういうものにするかを考える、機器を実際にメーカの方々と作る、平行して、科学的に一級のデータを出すために事前に注意深くキャリブレーションデータを取って次のステップでよりよく使うために直す、処理ソフトを検討し滞り無く動くシステムを作る、打ち上がった後は、機器を運用する、そしてもちろん、データを取得解析ですね。科学研究を先頭に立って行う、時には学生も含めて周りのデータ解析を支援するという、全てを行いました。
——科学的な目的としては、いかがな感じでしょう。
春山氏:
科学的な目的としては、いろいろなアイデアがありましたが、その中で私は、特に以下の4つの研究をてがけ、また、今後ともやりたいと思っていることの1つは月の火成活動の年代調査です。月面には隕石衝突などをきっかけとして溶岩に覆われたものがあります、その年代を決めるクレーター年代学です。SELENEでのデータが手に入り、クレーター年代学についてはこれまででも色々と研究することができました。新しい探査のデータを使って月全体でどういう火山の噴火のバリエーションがあったのかを更に知っていきたいですね。
2つめは永久影の調査を行うというものです。カメラの感度をよくしておけば、永久影にはきっと氷が張ってピカピカ光っているから見つかるのではないかと思っていました。実際、月南極のシャックルトンクレーターについて研究ができました。今後、他の永久影の中も調査していきたいです。
3つめは溶岩チューブを調べるというものです。地下に空洞があり、それが一部崩れた入口「天窓」が見つかるはずというアイデアから、2009年には実際に月に初めて地下空洞に開いたと思われる縦孔、「天窓」を発見しました。現在、月の縦孔、溶岩チューブに関する研究は非常にホットなトピックで、一番力を入れているものです。
最後の4つめは、ライナーガンマと呼ばれる地域など、表面に不思議な渦巻き模様を持ち、また磁気異常が観測されている地域を調べて、そうした奇妙な渦巻き模様地域の成り立ちを調べたいですね。
それから、追加していいですか?これが実は完全に私的な好奇心なのですが、月の土地を結婚のお祝いにいただいたのです。そのお隣の土地はトム=ハンクスさんだったりするのですが、そこの土地に価値があるかどうかを調べたいですね(笑)。
火星にもつながるUZUMEの立ち上げ
JUICE以外の研究
——JUICE以外には?春山先生が関わっておられる、力を入れているプロジェクトは何ですか?
春山氏:
主軸はUZUMEというプロジェクトの立ち上げです。月の、将来的には火星の地下の直接探査です。先ほども言いましたが、月には、溶岩チューブと呼ばれる地下空洞が存在していると考えられています。また、月だけでなく火星にも溶岩チューブが存在するのは確実だと考えています。今、国際的な宇宙探査として有人宇宙探査世界が近づいています。そのときに地下空洞というのは放射線から逃れられるという点で人間が基地を作る上では唯一の解と考えています。
一方で極域に基地をつくるという話があるので、そこのバランスが難しいです。極域に行くとなると恒久的な基地にはならないでしょうからね。
放射線から守られた恒久的な基地をつくり、その先火星にもつなげる意味でもUZUMEを立ち上げていきたいと考えています。
——先日、月周回衛星「かぐや」の観測成果に関する記者説明会として、記者会見がありましたが、UZUMEについても詳しく説明をお願いします。
春山氏: UZUME というのは、Unprecedented Zipangu Underworld of the Moon Explorationの略で、SELENEでみつけられた縦孔、そしてその先に連なる溶岩チューブのような地下空洞の直接探査計画です。SELENEは、月に大きな縦孔を3つ発見しました。これらの縦孔は直径数十m、高さ数十mで、下には横孔・地下空洞が開けていて、その地下空洞は火山性の溶岩が流れてできた溶岩チューブと考えられています。溶岩チューブは縦孔のサイズから見ると相当大きなもので、そこに将来基地を作れないかと考えています。もちろん、それだけでなく月で過去に起きた火山活動について知ることができるでしょう。また、月の固有の水や、地下深くに産まれ、運ばれた物質を見つけるチャンスがあるかもしれませんね。この計画を私たちはUZUMEといっています。
JUICEのこの先と、春山先生のお役目
——プロジェクトへの関わり方が人によって大きく違うと思われるのですが、うまく融合していくのでしょうか?また、段階を追って何をしていけばいいと思われますか?
春山氏:
SELENEを振り返ってみると、打ち上げ前は開発に忙しかったのですが、データ解析結果がどうなるかを予想するために他の探査で得られたデータをもっと見て解析しておけばよかったと思っています。
JUICEにしても、木星探査機ガリレオや土星探査機カッシーニ計画のデータを扱ってみれば、データに対する感覚がわかりますし、気づいたことを観測機の製作にフィードバックさせて、落としてはいけないことが見えてくると思うのです。データを見、そして解析をしておけば、何をどこまでが許容できるのか、逆にできないのか、わかるようになるでしょう。
機器開発に興味をもっている若い人たち、これから研究を進めることになる学生さんやポスドクにあたる人たちに、物作りのスキルや経験が大事なのはもちろんで、さらに平行して、室内実験、理論、データ解析、それから、これが結構大事だと思っているのですが野外調査などの様々な研究のあり方を学んでもらおうと思っています。お互いのわからないところを理解するためにも、それぞれを固定でするのではなく分野を交換するような「分野インターン」も考えています。
JUICEはこれだけ規模が大きくていろいろな機器が載る探査だから、これからの科学と人の育成のために、かなり有効なプロジェクトとなるでしょうね。
今まで、日本の中では、同じ太陽系科学といっても、電磁気的な地球電磁気を中心とした部分と、もう1つは固体惑星を中心とした部分とが結構隔離されていて、外からはわからないと思いますが、ある意味交流がない状態が続いていましたから。
使命感をもってやりたい
——1個の探査の中にその様々な機器が入り、かつ隔離されていた学問を融合することは、これから将来日本が探査をやっていく上でも大事なステップというわけですね。
春山氏:
電磁気的なデータ機器と固体系の融合はSELENEでは当時、鶴田浩一郎先生が意図をもってそうされました。SELENEは、三軸制御といって、おなかを月に向けてそのまま飛んでいく探査機です。これは、基本的に、地球電磁気学的な機器にとってはあまりよろしくないわけです。むしろスピンをかけておいて、場を調べるときには較正データをとれるようにするべきです。昔、鶴田先生にSELENEにプラズマ系の機器を入れるっていうのは果たして科学的に良いことなのでしょうかと質問したところ、「もちろん分離させてスピンが有用な衛星はスピン衛星として作った方がいいけれど、一緒にのっていくことがこれからの分野の発展、とくに固体惑星はまだまだなので、その先生たちと一緒にやっていくための過程としてもとても重要だ」とおっしゃったのです。
確かに、実際、開発を通して、そしてデータがとれてデータの解析を通して、異なる機器、異なる分野の交流がとても大事で、とくに電磁気学的なレーダーサウンダーなんていうのは、機器としてはプラズマとか電磁場で計測データなどもうちょっと固体と一緒にやっていけば、解釈的には非常に重要なことがもっと出てくるはず。学問には壁があるわけではないので、もっと崩し広げていきたいですね。
そこの融合は私が使命感をもってやっていかなければならないところです。
——海外メンバーに触発されることはありますか?日本が変わっていかなければならないところはありますか?
春山氏:
いま目標としている人は、JUICEのカメラPIの方です。この方はすごいです。視野も広いし気配りもきいているし、スケジュール管理は大変だろうけどプロジェクトに慣れていていると思います。そういう人を見ると、日本がこういう人材をたくさんもっていたらいいのにと感じます。日本にも、機器がわかって、サイエンスを大事にして、インターナショナルに活躍できる人を増やすことだと思います。
そのためには、ダメ出し方式ではいけない。やはり人がやっていくことは、認めて互いにサポートしていくからこそ進むものですからね。
——お話を伺っていても、春山先生が開発の経験値の上で大きなビジョンを持ち、次に繋げるよう行動されていることを感じます。
JUICEのプレイヤーについて
——JUICEの他のメンバーに春山先生が期待するところ、あるいは春山先生が果たす役割はどのあたりですか?
春山氏:
齋藤先生がもっと他の人にどんどん仕事をふれるようにサポートしようと思っています。なにせ初期の作業は心身ともに大変ですし、最初は思った通り動かないのが常ですから。
ですが、その初期の苦労は将来的には効いてきます。そうしないといけない大変な立場を私がフォローできたらいいかなと。JUICEは個性的なメンバーが多いですからね、どう発展していくか楽しみです。
後進を育てるためにも、内部の良さを伸ばすためにも、応援しあってプロジェクトに挑まれるお姿は、私達一般人さえもわくわくしてきます。先生がたのお仕事、皆で楽しみにしています。
取材:Nyan&Co. 西川